母へのプレゼントの思い出
父親がいない私には、母は不自由させまいと仕事に励んでいました。
学校が終わって家に帰っても誰もいないし、寂しい思いをしていたこともあり中学生になる頃にはひどい言葉で母を罵ったものです。
中学高校は、会話をすることもほとんどなく話しかけられても無視をするのが日常になっていました。
しかし、成績が優秀だった私は大学進学にあたり、一人で上京することになりました。
大学進学費用として母が貯金をしてくれていたので、金銭的にはさほど苦労をすることもなく楽しい学生生活を謳歌することができました。
一人暮らしをしてからは、あれほど疎んじていた母に対して感謝の気持ちが芽生えるようになり帰省するたびに少しずつではありますが良好な関係を築くようにもなりました。
卒業後は地元で就職したのですが、帰ってくる必要はないと何度も考え直すように言われたものです。
「一人しかいないから、自分のことを心配して帰ってこようとしているのであれば止めてもらいたい、あなたの人生はあなた自身の物だから自分が思ったように好きに生きなさい。それが親として一番幸せなことであり、支えてあげるのが親の仕事なのだから」と言われました。
しかし私もいつ素敵な男性が現れて嫁いでいくかわからないので、せめてそれまでは親の近くにいようと思っていたので決意が揺らぐことはありませんでした。
今まで私の為に自分の時間を楽しむことはありませんでしたし、仕事に追われてゆっくり旅行を楽しんだこともありませんでした。
毎年は無理ですが3年に一度を目標に海外旅行をプレゼントするようにし、知らない土地に出かけて思い出を作るようにしていました。
最初は貯金をするようにすすめられましたが、できるうちに旅行をプレゼントしておかないと私自身が後悔することになるから付き合ってもらいたいと説得してでかけていたものです。
3か国ほど一緒に行きましたが、その後私は嫁いでいきました。
主人の仕事の関係で日本から遠く離れた国に退職まで住むことになったのです。
日本に母を一人残して出国することに悩みましたが、「あなたの人生はあなたのもの。思ったように好きに生きなさい。それが親の幸せと話したはず」と背中を押してくれました。
まさか自分が海外生活を送ることになるとは思いませんでしたが、やはり後悔しないように一緒に暮らして旅行にも出かけて良かったと思っています。
滅多に会うことはありませんが、あの時の私の決断は正しかったのだと今でも思っています。
自己満足ではありますが、少しばかり親孝行もできたのではないかと思っています。
小さい頃に一緒に過ごすことがほとんどなかったので、その時間を埋めることができたわけですから。